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研究内容CONCEPT

不定比性とは単純な整数比では表せないことを意味し、そのような組成の物質は非化学量論的化合物(non-stoichiometric compound)とも呼ばれます。たとえば、水は水素:酸素=2:1の化合物ですが、合金では 21/13 という一見中途半端な状態に安定な組成があったり、同一の構造が許す組成幅が広い物質群が存在します。 このような組成の不定比性は温度や圧力と同等な熱力学的関数(化学ポテンシャル)と考えることができます。すなわち組成は構造変化を起こす重要なパラメータなのです。そして構造変化が起こる臨界点の近傍は変化を求める自然の要求が強い領域で、ほんの僅かな外場により巨視的な組織変化が誘起されたり、誘電率などの物性が大きく揺らぎます。 このような臨界点近傍の揺らぎは、材料を利用する立場からは欠くことの出来ないもので、この不定比性が織りなす物理を知り、使いこなすことによりはじめて材料を使いこなすことができるのです。以下、本研究室で実際に行っている研究例を紹介します。

ヒュームロザリー相の安定性と組織に与える影響

結晶の中では元素が規則的に並んでいますが、ヒュームロザリー相(HR相)と呼ばれる一連の合金系では出現する化合物の結晶構造が原子の種類に関わらず原子一個あたりの平均価電子の数(e/a)に依存します。当研究室では典型的なHR相である超合金が呈する相変態挙動を電子顕微鏡を用いて調べることにより、組成や温度に依存するこれらの相の安定性が、合金の組織に及ぼす影響を解明しています。

図1)  図2)

図1は人類最古の実用合金である青銅における粒界からの析出挙動を走査型電子顕微鏡で観察したものです。灰色の領域は母相の銅で白いコントラストを呈している部分が化合物です。局所サンプリングと電子顕微鏡の組合せによりこの領域の解析が可能となったのはつい最近のことで、従来信じられていた内容に反して、この領域では高温で安定な相が母相と整合性を持って出現していることが明らかとなりました。(図2)


Mg合金における長周期積層構造(LPSO)とGPゾーンの形成メカニズム

Mg基3元系合金において、長周期積層欠陥構造に固溶元素が濃化したシンクロ型LPSO相はキンク変形による新たな強化機構の発現と深く関わっている。しかし、その形成メカニズムは未だ多くの謎に包まれており、その形成メカニズムの理解や組織制御が基礎科学としても実用材料としても重要となっている。我々のグループでは、最先端の収差補正電子顕微鏡を活用し、時効やLPSO形成初期過程における元素分布及び弾性場の変化の観点から研究を進めている。特に、時効処理条件や仕込み組成の僅かな差によって析出挙動や析出構造に顕著な違いが現れ、従来の解析法では検出できない精度で微視的な立場から時効析出のメカニズム解明に取り組んでいる。

18R→24R相変態の構造遷移領域の(a)HAADF-STEM像と(b)[011(-)0]Mg方向と(c)[0001]Mg方向の垂直歪みマップ。


強誘電体薄膜における分極構造とドメイン構造の解明

酸化物強誘電体材料は、不揮発性メモリなど記録媒体や超音波アクチュエータなど動力源、エネルギーハーベスティングなどエネルギー源として注目されている電子材料である。我々は、強誘電性発現に深く関わる自発分極構造や自発分極が回転するドメイン境界の構造を原子変位場の観点から明らかにし、代表的な強誘電体であるPbTiO3Pb(Zr,Ti)O3エピタキシャル薄膜におけるドメイン構造形成メカニズムを格子欠陥との弾性相互作用の観点から明らかにしてきた。

PbTiO3SrTiO3エピタキシャル薄膜界面近傍の収差補正HRTEM像の幾何学的位相解析により算出した歪みマップ。ナノサイズの90°ドメインが界面付近の1組の部分転位と弾性的に相互作用していることをダイレクトに示している。


緩和型強誘電体におけるナノ組織と組成相境界における構造の解明

強誘電体の中でも、緩和型強誘電体(リラクサー)と呼ばれる一連の材料は、強誘電体の10倍近い誘電率を示すことから注目されているが、本質的に不均質な構造を持つため、その構造の理解は長年の課題であった。我々は、原子分解能電子顕微鏡法により、代表的なPb(Mg1/3Nb2/3)O3系リラクサーのヘテロナノ組織形成メカニズムと誘電特性の関連の観点からリラクサー現象発現メカニズムの解明に取り組んでいる。特に、異種強誘電体結晶の固溶体においては、ある組成域で巨大誘電特性発現に深い関わりを持つ組成相境界(MPB)と呼ばれる異種結晶相の共存状態が出現することが知られてきたが、その詳細については未だ議論が続いている。我々は、従来回折法だけで議論されてきたMPB近傍の結晶構造を収差補正電子顕微鏡法により原子分解能で明らかにすると共に原子変位場の解析から、MPB出現組成や微細組織形成がバルク結晶と薄膜とで大きく異なることを見出し、MPBにおける構造の揺らぎや相間の揺らぎと言った揺らぎの協奏現象に着目して、微視的な観点からMPB発現のメカニズムの解明に取り組んでいる 。

Pb(Mg1/3Nb2/3)O3/SrTiO3エピタキシャル薄膜の収差補正HRTEM像、制限視野電子回折、及びマルチスライスシミュレーション。陽イオンだけでなく酸化物イオンの局所変位を見ることができる。

常誘電体結晶の超薄膜化による準安定相制御と強誘電相の発現

ZrO2はバルク状態で複雑な強弾性相転移挙動を示す興味深い誘電体材料で、室温では歪みの大きな単斜相が安定である。従来、Y2O3などの希土類酸化物を固溶させることによって高温相である正方相や立方相を室温で安定化し,この問題を化学的に回避してきた。しかし,化学的ドーピングは高濃度の電子的欠陥の起源となりゲート絶縁膜としての使用は困難であった。本研究では,ZrO2の膜厚を3 nmまで薄くすることによって、高温相である正方相の物理的に準安定化を実現し、リーク電流や界面トラップ電荷等の電子的欠陥の発生要因の大幅な削減を実現した。さらに、近年強誘電性の発現が見出されたY2O3-HfO2やZrO2-HfO2などの固溶体において、バルクでは存在できない斜方晶薄膜のエピタキシャル成長と分極構造やドメイン構造の解明を進めている。

無機強誘電体薄膜の作製とその特性解明

強誘電体は、中心対称性を持たない結晶構造に起因した“分極”を有していることから、誘電性・圧電性・焦電性・強誘電性と様々な電気特性を発現する機能性材料であり、センサ・アクチュエータといった身の回りのデバイスに応用されております。このユニークな電気特性の根幹となる分極は、応力・電界・温度といった様々なパラメータに依存し、複雑な状態で材料中に存在します。そこで、デバイス応用の際は、目的に応じて材料をデザインする必要があり、分極がどの様な状態で存在しているか、或はどの様に存在させる必要があるのかを理解することが必須であります。当研究室では、X線回折装置,透過型電子顕微鏡を用いて、上記パラメータが結晶構造に及ぼす影響を巨視的および微視的に調査し、分極状態と電気特性の関係を解明することで、材料デザインへフィードバックさせることを目的として研究しております。現在は、無機強誘電体薄膜を研究対象とし、作製から評価まで行っております。

図は低温かつ高圧下で製膜された無機強誘電体薄膜の断面を透過型電子顕微鏡により観察した結果である。(a)は組成分析の結果であり、赤と緑の領域が存在することから、膜厚方向にそって構成元素が異なっていることを意味している。(b)は各領域での組織観察の結果であり、点線で示した境界の左右で組織が大きくことなることが分かる。(c)および(d)は、それぞれの領域での電子線回折像である。これより、緑の領域にのみ超格子反射が観測され、赤の領域と異なる結晶構造を有していることが明らかとなった。


超伝導材料の微細組織解析と高特性化

超伝導材料は、その特異な性質からMRIやリニアモーターカーなどへの実用が進められている。超伝導材料の実用化の指標の一つである臨界電流特性は、その材料の持つ微細組織に強く依存する。さらに使用環境により求められる微細組織は異なるため、さらなる実用の幅を広げるには作製方法の最適化による組織制御を行う必要がある。本研究室では、種々の作製方法で作製した超伝導材料について、マルチスケールでの組織解析による組織形成過程の考察と組織制御指針の提案を行っている。

 

(左図)MgB2超伝導線材のHAADF-STEM像と暗い領域から得られた電子回折図形。最高性能を有する線材においても、結晶化領域中におよそ25%の未反応アモルファスホウ素粒が残存している。

(右図)Ba-122超伝導バルクの結晶方位解析結果(逆極点図マップ)。粒径にばらつきが少ないことや集合組織を持たないことがわかる。


 グラファイトチェーンのおける組織形成過程の解明

バイオマスエネルギーとして植物からエタノールを抽出することは南米では一般的に行われています。 日本でも自然の豊かな北海道では樹木から燃料を回収するための基礎研究が盛んに行われています。ここで問題となるのがエタノール抽出後に残る多量の残材です。炭素を主体とした残材にはカルシウムや シリコンなど様々な元素が混じり、構造的にもアモルファス状のカーボンです。北見工業大学のグループでは金属イオンを含む水溶液に残材を浸漬させることにより、樹木細胞内に金属を析出させ、アモルファスを結晶化させる技術を開発しました。この結晶化のメカニズムを解明するために、当研究室では走査型電子顕微鏡技術の最先端である低加速観察、透過電子による観察を組み合わせ、炭化した木材細胞内に結晶化したカーボンがなす高次構造が出現する様子を可視化することに成功しました。  

                   

図1 結晶化したカーボンチェーンがなす高次構造のステレオ写真(左の写真を右目で、右の写真を左目で見てください。)

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